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マグマ

文庫本

マグマ

マグマ

[出版社]
角川文庫
[発売日]
2009年8月25日
[ISBN]
978-4-04-394309-8
[価 格]
667円(+税)
amazon/マグマ
あらすじ
外資系投資ファンド勤務の野上妙子が休暇明けに出社すると、所属部署がなくなっていた。ただ1人クビを免れた妙子は、トップから「日本地熱開発」の再生を指示される。なぜ私だけが? その上、原発の陰で見捨てられ続けてきた地熱発電ビジネスをなぜ今になって―? 政治家、研究者、様々な思惑が錯綜する中、妙子は自らの失地回復を欠けてなりふり構わぬ賭けに出る。世界のエネルギー情勢が急激に変化する今、地熱は救世主となれるか?!
作者の思い
地熱の可能性軸に据え、問題意識持つ契機に
——エネルギーを扱いながら、ハゲタカと呼ばれる外資系ファンドに勤める女性「野上妙子」を主人公にしたのは。
(真山) 設定は意図的に作りました。専門用語が多いため『それは何ですか』と素人目線で常に聞き続ける役が必要でした。もう一つは、エネルギー業界から一番遠い、数字がすべての金融業界を持ってくることでエネルギー業界の問題点や葛藤(かっとう)が浮き彫りになるからです。
 小説は虚構というすごくいいキーワードを持っています。だからこそ別の現実を描くことができ、世の中が新しい選択肢に気づいて変わるきっかけにもなるのです。

——地熱発電に着目したのは。
(真山) 私は日本には代替エネルギーがないため、原子力発電の稼働率を向上せざるをえないことを非常に不幸だと思っていました。小説中にも『選択する』ということを強調する場面がありますが選択できない世の中はおかしいと考えました。地熱発電に出合ったのは偶然で、日本は火山大国なのでこれなら代替エネルギーになるだろうと思い取材を始めました。相当な期待値をもって取材に行ったのですが、地熱による発電は実際、エネルギー供給量の0.2%だけですと言われてしまいました。ですが、それもまた小説としては面白いなと思いましたね。
 さらに取材を進めると、地熱発電が遅々として進まない背最にボーリングの費用や、地熱資源が国立公園に集中していること、補助金の問題などいろいろな問題がでてなきました。そこにはまさに高度経済成長の公共事業の縮図が如実にあると思いました。誰がよくて誰が悪いということではなく、いろんな要因が重なり合い、地熱発電が進まない環境ができています。0.2%の地熱発電を小説の中で100倍くらいに広がる可能性を描けたら、夢のエネルギーである地熱発電が身近なものになるという思いもありました。

——原子力発電についてはどうお考えですか。
(真山) 原子力発電には何も知らない恐怖感があると思います。私自身、電気は空気だと思っており、無尽蔵に使えるものだととらえていました。
 私は小説の中で原子力発電を人間の英知とモラルを試す『神の火』と表現しました。一度生活が豊かになった日本人はエネルギーを減らす生活をすることができません。だったら、なおさら多くの人が知ることが重要だと考えました。

——「マグマ」で描きたかったことは。
(真山) 一度電気がどうやってできているのか考えるきっかけになってほしいですね。化石燃料といわれる石炭、石油や、原子力発電などを思い込みでだめとかいいとか決めるのではなく、知ること、興味をもってもらうことが重要だと思いました。正しいことを伝える機会を与え、いろんな人に問題意識を持ってもらいたいですね。エネルギーには知らないで済まされないことがたくさんあるからです。

〈「電気新聞」文化欄「この人と1 時間」2006年2月23 日〉 聞き手:岡本彩記者

主要参考文献一覧(順不同)
  • 湯原浩三『大地のエネルギー 地熱』(古今書院)
  • 高木仁三郎『市民科学者として生きる』(岩波新書)
  • 高木仁三郎『原発事故はなぜくりかえすのか』(岩波新書)
  • 原子力資料情報室『検証 東電原発トラブル隠し』(岩波ブックレット)
  • 広瀬隆・藤田祐幸『原子力発電で本当に私たちが知りたい120の基礎知識』(東京書籍)
  • 藤田祐幸『脱原発のエネルギー計画』(高文研)
  • 西村陽『電力自由化完全ガイド』(エネルギーフォーラム)
  • 井上雅晴『電力自由化2007年の扉』(エネルギーフォーラム)
  • 新井光雄編『「エネルギー」を語る 33の視点・論点』(エネルギーフォーラム)
  • 坂本吉弘編『エネルギー、いまそこにある危機』(日刊工業新聞社)
  • 木谷文弘『由布院の小さな奇跡』(新潮新書)
※他に、全国各紙、週刊誌・月刊誌各誌、エネルギー関係の官庁・財団の白書やホームページ、さらにはエネルギー問題を取り上げたインターネットサイトも参考にした。小説中に登場するP.D.ジェイムズの『女には向かない職業』はハヤカワ・ポケット・ミステリ版(小泉喜美子訳)を参照した。