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ハゲタカ

単行本

ハゲタカ〈上〉

ハゲタカ〈上〉

[出版社]
ダイヤモンド社
[ISBN]
978-4-478-93048-1
[発売日]
2004年12月16日
[価 格]
1,600円(+税)
amazon/ハゲタカ〈上〉
ハゲタカ〈下〉

ハゲタカ〈下〉

[出版社]
ダイヤモンド社
[ISBN]
978-4-478-93061-9
[発売日]
2004年12月16日
[価 格]
1,600円(+税)
amazon/ハゲタカ〈下〉
あらすじ
ニューヨークの投資ファンド社長・鷲津政彦は、バブル崩壊後、不景気にあえぐ日本に戻り瀕死状態の企業を次々と買収する。敵対するファンドによる妨害や、買収先の社員からの反発を受けながらも、鷲津は斬新なプランで無慈悲に企業を買い漁っていく。都銀で不良債権処理を担当していたエリート行員の芝野健夫にとって鷲津とのビジネスは衝撃的で、自らの将来を変える決断に至る。一方、経営難に苦しむ日光の老舗ホテルの娘・松平貴子も、二人との出会いがきっかけで、自らの試練に立ち向かい始めた。
文庫本
新装版 ハゲタカ〈上〉

新装版 ハゲタカ〈上〉

[出版社]
講談社文庫
[ISBN]
978-4062776523
[発売日]
2013年9月13日
[価 格]
800円(+税)
amazon/新装版 ハゲタカ〈上〉
新装版 ハゲタカ〈下〉

新装版 ハゲタカ〈下〉

[出版社]
講談社文庫
[ISBN]
978-4062776530
[発売日]
2013年9月13日
[価 格]
750円(+税)
amazon/新装版 ハゲタカ〈下〉
ハゲタカ〈上〉

ハゲタカ〈上〉

[出版社]
講談社文庫
[ISBN]
978-4-06-275352-9
[発売日]
2006年3月15日
[価 格]
781円(+税)
ハゲタカ〈下〉

ハゲタカ〈下〉

[出版社]
講談社文庫
[ISBN]
978-4-06-275353-7
[発売日]
2006年3月15日
[価 格]
733円(+税)
作者の思い
小説という名の「嘘」が、現実とは違う不思議な力を発揮するためには、その「嘘」を支える原動力がいる---。
拙著「ハゲタカ」を書いていて、そのことを痛感した。その根底にあるのは、取材や関連文書から得られる事実の積み重ねから生まれるリアリティと呼ばれるものだ。だが、これだけでは、おそらく嘘が現実を凌駕することはできない、と私は思っている。

アメリカの映画に教えられたこと
今回の原動力は、3つあった---。それは、
「ラストサムライ」、「中禅寺湖」、そして「大阪人的したたかさ」だ。
「ハゲタカ」執筆のための準備を始めたのが、03年の12月。そのころ、色んな刺激が欲しくて、たくさん映画やビデオを観た。作品そのものからヒントを得ようとしたというよりは、背中を押される何かを探していた気がする。そんなとき出会ったのが、映画「ラストサムライ」だった。
作品の紹介は、省略するが、映画の半ば以降、私は不覚にも嗚咽するほどの涙にむせび続けた。映画ファンを自認する私自身の過去の経験でも、「前代未聞」の大事件だった。
嗚咽の理由は、感動ではなく、悔しさだった。
なぜ、我々日本人が、決して忘れてはいけないはずの魂の本質を、こうしてアメリカ人から教わらなければならないのか。今、日本人一人ひとりが、持つべきスピリッツを、この映画は全て言い尽くしているではないか!
皮肉な話だった。アメリカの金融機関「ハゲタカ」によって壊滅状態にあると言われる日本が、その一方でアメリカの映画から、彼らに立ち向かう勇気をも与えられている……。
だが、私はそれを皮肉なブラックユーモアにしたくなかった。むしろ、普段は全く信じていない神の啓示かも知れない、とすら真剣に思った。
このスピリッツをテーマにしよう!その瞬間、「ハゲタカ」という小説の背骨が誕生した。

日本の原風景と生まれ故郷
そして、翌年1月、生まれて初めて訪れた日光と中禅寺湖で、私は、我々が大切にしたい「日本人の原風景」と出会った気がした。中でも中禅寺湖の風景に圧倒された。冬の寒さは厳しく、降った雪で、歩道が凍結していた。穏やかな湖、そして灰色の空。極寒の中で、中禅寺湖は、孤高の美を静かに守り続けていた。
この風景を守りたい---。ここで感じた想いや空気を小説に織り込めば、数字やお金、人間の欲と欲のぶつかり合いという小説に違う光が生まれるかも知れない。
私はこの場所で、そんな空気をもらった気がした。
もう1つ、この小説を支えた原動力があった。それは、自分自身の中に流れる血だった。
大阪で生まれ育ち、大学を京都で過ごし、記者時代の数年を除き、ずっと関西で暮らしてきた。だが長い間、多くの人がイメージする「大阪的なるもの」に、違和感を感じていた。
たこ焼き、阪神タイガース、図々しさ、お笑い……。それらは、確かに分かりやすくはあった。だが、本当の大阪的なものではない。ずっとそう感じていた。
偶然、小説を書く前に、大阪出身の大作家の若き日の作品を数作連続して読んだ。それが、私の中にあった違和感を解消した。そして、私の中で眠っていた大阪人の血を呼び覚ましてくれた。
大阪人の血---、どんな時もしなやかに、そしてしたたかに。目的達成のために、努力を惜しまない。誰かと抗うのではなく、長い物には巻かれるフリをして、「実」は手に入れる。そんなしたたかさこそ、混沌と呼ばれる時代には求められるのではないか。
そこまで行き着いたとき、そのしたたかさが、小説の主人公・鷲津政彦のスピリッツとなって、彼を突き動かしてくれた。

三つの刺激から生まれた「ハゲタカ」
落語の世界に、三題噺というのがある。全く異なる三つのお題を与えられ、限られた時間でその言葉を噺の中に織り込みながら、笑いと涙、そして聴く人が納得できるオチをつけるというものだ。
「ラストサムライ」、「中禅寺湖」、「大阪人的したたかさ」という「ハゲタカ」を支えた三つの原動力は、まさに三題噺のお題のようだ。そして、一見、かけ離れたこの三つの力が、一つになったとき、作者自身も思っていなかった物語のうねりが生まれた気がした。
ドラマとは、作家の頭の中で生まれるのではない。日々の生活の中で受ける刺激や、忘れていた想いが、不意に化学反応を起こし、その小説の中でしか生まれない不思議な世界を紡いでいくのだ。
小説「ハゲタカ」は、小説家にとって大切なことを私に教えてくれた。

〈「ラストサムライ」、「中禅寺湖」、「大阪人的したたかさ」(2005年2月1日)〉

主要参考文献一覧(順不同)
  • 日本経済新聞社編『金融迷走の10年』(日経ビジネス人文庫)
  • 共同通信社社会部編『崩壊連鎖』(共同通信社)
  • 大塚将司『大銀行 黄金の世紀 男たちの闘い』(講談社)
  • 不良債権ビジネス研究会『ビジネスとしての不良債権』(アーク出版)
  • 椎名麻紗枝『100万人を破滅させた大銀行の犯罪』(講談社)
  • ベンジャミン・フルフォード『日本がアルゼンチン・タンゴを踊る日』(光文社)
  • ベンジャミン・フルフォード『ヤクザ・リセッション』(光文社)
  • ブライアン・バロー&ジョン・ヘルヤー著・鈴田敦之訳・三和総合研究所海外戦略部監修『野蛮な来訪者(上)(下)』(NHK出版)
  • ヒラリー・ローゼンバーグ著・伴百江・松尾由美・松尾順介訳『ハゲタカ投資家』(日本経済新聞社)
  • 和田勉『買収ファンド』(光文社新書)
  • 和田勉『企業再生ファンド』(光文社新書)
  • 越純一郎編『プライベート・エクイティ』(日本経済新聞社)
  • ジリアン・テット著・武井楊一訳『セイビング・ザ・サン』(日本経済新聞社)
  • 越純一郎『事業再生要諦』(商事法務)
  • 商事法務編『再生・再編事例集1~3』(商事法務)
  • プライスウォーターハウスクーパースフィナンシャル・アドバイザリー・サービス編・田作朋雄著『図解 民事再生法』(東洋経済新報社)
  • 福田和美『日光避暑地物語』(平凡社)
  • 福田和美『日光鱒釣紳士物語』(山と渓谷社)
  • 常盤新平『森と湖の館』(潮出版社)
  • 高藤晴俊『日光東照宮の謎』(講談社現代新書)
  • 熊谷勝行『企業倒産』(平凡社新書)
  • 松崎隆司『会社破綻の現場』(講談社)
  • 矢部正秋『ユダヤ式交渉術』(三笠書房)
  • 堀貞一郎『メイド・イン・ジャパンからウェルカム・ツー・ジャパンへ』(プレジデント社)
  • 自然環境研究センター編『新・美しい自然公園12 奥日光』(財団法人自然公園美化管理財団)
  • 『奥日光ハイキングガイド』(財団法人自然公園財団日光支部)
  • Sterling & Peggy Seagrave『Gold Warriors:America's Secret Recovery of Yamasita's Gold』(Verso Books)
※他に新聞、経済誌、週刊誌、インターネットからも情報を得た。各部の扉の引用句は、新渡戸稲造著・須知徳平訳『武士道』(講談社インターナショナル)から引いたものである。